毎日、毎日、ただひたすらにイライラする。大抵のことが、思い通りにはいかない。
毎日、毎日、声を荒げて子どもたちに怒鳴る。ときに、手をあげたくなることも正直ある。
しかし、このところ、私に怒られた双子弟、まそらの表情が、なんだか気になるようになってきた。
「プライドが傷ついた」ような、「自分は駄目な子どもだ」というような、何とも言えない、表現しがたい顔をするのだ。
更に、ある日の朝、園に向かう車の中で双子兄まひろが言う。
「お母さん、(自分が)死んでもまひろのこと好き?」
母の愛に疑念を抱くとは・・・。
そして、思う。 今、本当にこの子がいなくなってしまったとして、私は後悔しないだろうか?どうしてもっと優しくしなかったのかと悔いはしないだろうか?
間違いなく悔いるだろう。
そして、ある朝、牛乳をこぼしたまそらに、
「もうっ!何をしてるの!」
と、きつく言ってしまう。
朝一番から、ささいなことで、声を荒げるなんて・・・。
こんなことでは駄目だと我ながら思った。
そして決めた。
「今日1日、怒らない」
とは言え、悪いことをしたら、叱ったり、注意したりはしなければならない。それは仕方がないことだ。
しかし、怒りにまかせて、怒鳴ったり、大きな声で叱りつけたりするのはやめようと思ったのだった。
以下、主に弟、まそらについて。
●怒鳴らない:1日目
〈朝食時〉
いつも通り、食べるのが遅い。自分で食べない。しかも、すぐにウロウロして遊ぶ。 「はやく!」と声を荒げそうになるのを、堪える。
〈数字の練習〉
真面目にやらない。落書きをしたり、存在しない自作の数字を書いたりして遊ぶ。なので、なかなか終わらない。上達もしない。
「真面目にやって!はやく書いて!」と声を荒げそうになるのを、堪える。
〈歯磨き〉
「歯を磨くよ、来て」と言っても来ない。
「はやく来なさい!」と大きな声を出しそうになるのを、堪える。
〈お着替え〉
なかなかパジャマを脱がない。脱いでも外着を着ない。
「はやく脱ぎなさい!」「はやく着なさい!」とイライラ怒鳴りそうになるのを、堪える。
〈お片付け〉
全くやらない。
「はやく片付けなさい!」と声を荒げそうになるのを、堪える。
〈外出時〉
玄関先で、靴をテキパキ履かない。
「もう、はやく履きなさい!急いで!」と怒鳴りそうになるのを、堪える。
〈乗車時〉
やっとのことで、車にたどり着く。乗らない。
「はやく乗りなさい!」と声を荒げそうになるのを、堪える。
〈園到着時〉
玄関先で何度言っても靴を脱がない。脱いでも下足箱にしまわない。ようやくしまっても、上靴を履かない。ようやく履いても、教室に向かわない・・・。
「はやく!はやく!はやくー!」と大声で叫びたくなるのを、堪える。
ここで、第1ターム終了。
なんとかかんとかだ。やれやれと思いつつ、園を後にした。我ながら、よく頑張った。長く息を吐く。
そして、第2ターム開始。
〈お迎え時〉
降園時、なかなか、玄関に向かわない。ようやく向かっても、上靴を脱がない。脱いでも、片付けない。そして、外履きを履かない。
イライラ、イライラ、イライラ・・・。
「はやく!!!」と、怒鳴りたいが、堪える。
〈帰宅後、降車時〉
家に着いても、自分のリュックを背負わない。そして、車から降りない。 「はやく!」と声を荒げたくなるが、堪える。
〈玄関先〉
なかなか、家に入らない。やっと入っても、靴を脱がない。
「もう!はやく脱いでよ!」と怒鳴りたいが、堪える。
〈入浴時〉
バスルームに行かない。行っても服を脱がない。出ても服を着ない。
「はやく服を着なさい!」と怒鳴りたいが、堪える。
〈夕食準備時〉
下の階に響きそうなほどドンドンと大きな音を立て、派手な動きをする。ティシュを大量に出す。双子同士で、不毛な喧嘩をする。
「やめなさい!!!」と怒鳴りたいが、堪える。
〈お片付け〉
朝と同様、片付けない。
「はやく片付けなさい!!!」と怒鳴りたいが、堪える。
〈夕食時〉
いつも通り、食べるのが遅い。自分で食べない。食べてもボロボロこぼす。しかも、すぐにウロウロして遊ぶ。席に座らない。
「いい加減にして!はやく食べて!!!」と怒鳴りたいが、堪える。
〈歯磨き〉
朝と同様、「歯を磨くよ、来て」と言っても来ない。いつまでも遊んでいる。
「はやく来なさい!!!」と怒鳴りたいが、堪える。
〈消灯時〉
寝ない。暗い部屋の中で、いつまでも騒ぐ。ゴソゴソ動く。 私自身の疲れも相まって、イライラは最高潮だ。
「はやく寝なさい!寝ない人は、この家から出て行って!もう!はやく出て行けーっ!」と心の中で、絶叫するが、声に出すのは、なんとか、堪える。
そして、やっと、ようやく、長い長い1日が終わった・・・。
●怒鳴らない:2日目
2日目は、2度ほど、声を荒げかける。
1度目は、「数字の練習」を真面目にせず、落書きばかりしていたときだ。
2度目は、何かは忘れたが、「やめなさい!」と大声を出しかけた。
いずれも、普段の怒鳴り声の半分くらいのボリュームで、辛うじて堪えた。
●怒鳴らない:3日目
3日目ともなると、かなり気が緩んでくる。すぐにいつも通りに、怒鳴りそうになる。
1度、とっさに大声をあげた。お茶の入ったコップが置いてあるテーブルの上で、随分と激しくミニカーを走らせていたときだ。「こぼすよ!!!」と反射的に大声が出た。
それから、まそらに対し、何かの折に、「痛いっ!」と大声を出してしまった。
●3日が過ぎて・・・
気づいたことがいくつかある。
気づき①
まず、怒りに任せて怒鳴るのは「疲れる」ということだ。「怒鳴る」ことにより、「怒度メーター」も振り切れて、軽く我を失う。それほどまでに強い「怒り」のパワーというのは、本当に凄まじいものがある。
「怒鳴らない」時点で、幾ばくかの「冷静さ」を確保できる。爆発しないので、エネルギーの消耗も少ない。結果、疲れないのだと知る。
気づき②
怒鳴っても、怒鳴らなくても、子どもの問題行動に変化はない。怒鳴ったら改善するのかというと、決してそんなことはないのだと知る。大きな声できつく叱りつけたところで、何の効果もない。言われることをろくに聞いていないのだから当然だ。これでは、疲れる分だけ、怒り損だ。
気づき③
8割は、弟、まそらを叱っていることに気づく。兄、まひろが、随分成長したということでもあり、まそらとの差が顕著になってきたということでもあるのだと思う。
気づき④
怒鳴る代わりに、「ため息」が増えた。怒鳴るのを堪えると、知らず知らず「はあ~・・・」と長い息が出ている。「大声」を出さないなら、その代替行為が必要になるということだろうか?
気づき⑤
怒りの内容は、主に、行動が「遅い」ことと、やめてほしいことを決して「やめない」ことと、人の話を「聞いていない」ことの3点にあると整理することができた。
気づき⑥
なぜだか、子どもたちに対し「丁寧語」になった。
「まそら!ご飯の時間!遊ぶ時間じゃないよ!」
↓
「まそらさん、ご飯を食べる時間ですよ」
「まそら!寝る時間!寝なさい!」
↓
「まそらさん、寝る時間ですよ。はやく寝ましょう」
「丁寧語」を使うと、子どもとの間に自然と精神的な距離ができる。そのため、「冷静」を維持できる。意図してそうしたわけではないが、自分なりの無意識レベルの工夫なのだと思う。
■「怒鳴らない」の今後
これからも、「怒鳴らない」は継続したいと考えている。
このところ、まそらが、「優しいからお父さんがいい。お父さ~ん、抱っこ」などと言うようになっていたのだが、「怒鳴らない」を始めて3日目、「お母さん、大好き!」と笑顔で言ってくれた。
「怒鳴らない」・・・。
やってよかった。内心、ダイエットと同じで、すぐに挫折するだろうと思っていたが、意外に頑張れた。これから、ついつい怒鳴ってしまうことは、多少はあるかと思う。しかし、「怒鳴らない」と意識をしているだけで、今までより怒鳴る回数は随分減らせるはずだ。
初心を忘れず、続けていきたい。